心配してるか」
「ほんとにねえ、Fちやんが気の毒ですわ」と、気の弱い細君は眼をうるませて云つた。
「Fには会ひたい。もう小遣ひも無くなつてるだらう」と、私にもFのことばかしは気がゝりであつた。

     六

 二三日経つて、私は鎌倉八幡前の宿屋から使ひをやつて、Fを呼んだ。仕出し屋の娘も一緒に来たので三人で晩飯を喰べた。日が暮れるとFだけさきに帰つて行つた。「お前も一緒に帰つて呉れよ」と云つたが娘は聴かなかつた。
「Fさんあなたそれではさきに帰つてゝ下さいね。わたしどうしてもお父さんを伴れて帰りますからね。それでないとわたしうちへ帰つて叱られるんですもの」娘はFを送り出しながら斯う云つた。
「そんなこと云つたつて駄目だよ。金どころかこの通り外套も時計も取られて来た始末で、兎に角もう一度方面を変へて出かけて来る。そして今度こそは屹度一週間位ゐで書きあげて金を持つて帰つて来るから、うちへ帰つてさう云つて呉れ」
「困るわ、そんなことでは。うちではたいへん怒つてるんだから。Fさん一人置いといてもう二十日にもなるのに何のたよりも無いつて、今日もポン/\怒つてゐたところなんだから、どうしてもあ
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