替を出したので、無論遅くもその日の中には配達になるものと思つて、別に私の方へは電報も打たなかつたのであつた。それがその翌日の昼頃私の手に入つたのであつた。
「何しろ失敗だつた」と、私達はそれから酒を飲み出したが、私は斯う繰返すほかなかつた。
「こつちではまさかそんなことになつてることゝは思はないし、多分どこかへ飲みにでも行つて、その金まで内田さんに立替へて貰ふ訳に行かなくて電報でも打つたんだらう位ゐに思つてゐたので、大したことに考へてゐなかつたのですよ。それに、やつぱし内田さんにしてもまるつきり商売が違ふんだから、それだけの理解もつかない訳で、どん/\勘定が登つてはと心配し出したのも無理もないでせうよ」
「いや何しろ大失敗だつた。やつぱし鎌倉を出て来ない方がよかつたかな。それが、今度こそは屹度書けると思つたものだからな、実際金の問題ばかしでなく、あの原稿が気になつて仕様がないもんだからね、ほんとに癪に障るから明日にでも本屋に交渉して金が出来たら、またどこかへ出かけようとも思つてゐる」
「もう止した方がいゝでせうよ。金が出来たらばやつぱしお寺へ帰る方がいゝと思ふがなあ、Fちやんもどんなに
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