いた電報を女中に頼んだが、すると早速また女中がお勘定をと云つてやつて来た。酒を三合飲んで三円五銭と云ふ勘定であつた。
「海岸の方の宿にゐたんだが、予算を狂はして金が無いんだけれど、明日までには屹度来るんだからもう一晩置いて呉れつて帳場へ話して呉れ」
斯う云つてやると四十越した働き者らしい、しかし正直さうなお内儀が出て来て、やはりお宿替へを請求したが、私は羽織と袴を渡してもう一晩の猶予を乞ふた。
「私は毎晩酒を飲まないと睡れないものだから、やはり酒は三合宛つけて下さい」私は斯う附け足したが、それも承知して呉れた。
私は三合のおつもりの酒を手酌で飲みながら、今晩店から弟が帰つて電報を見て明日は屹度何とか云つて来るだらうと、ホツと一息ついた気持で、割箸に挟まつた都々逸の辻占を読んで見たりしたが、それは、私は籠の鳥と諦めては居るが時節待てとは気が永い――と云つたやうなものだつたので、これは少し辻占が好くないと思つた。
日当りのいゝ、わりに小綺麗な気持のいゝ六畳の室であつた。斯うしてる間に十枚でも十五枚でも兎に角に書きあげてしまひたいと思つて、私は朝から原稿紙をひろげて返事の来る間やつて見
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