寸綺麗な女中で、それでも感心に遅くまで耳に柔かい京都弁で相手をしてお酌をした。兎に角明日は東京の本屋へ電話をかける決心をして、酒の力で睡つた。
九時頃寝床の中で電話帳を見て、女中にかけさせた。それから朝昼兼帯の遅い朝飯を喰べて、電話の通じるのを待つ間起きてるのに堪へない気持から、また床の中にもぐり込んで女中に借りた講談の雑誌など読んでゐたが、なか/\電話が通じなかつた、幾度も局へ催促させたが、最初からほんとに申込んであつたのか、係り合ふのを厭がつて申込まなかつたのか、たうとう電気のつくまで通じなかつた。もう一晩と頼んで見たが聴き入れさうな様子も無いので、私は日暮れ方そこの電燈の明るい玄関から外へ出た。例の新開町を寒い風に吹かれて、途中の汚ない物置めいた建物の劇場の曾我廼家五十九郎丈へとか曾我廼家ちやうちんへとかの幟など佗しい気持に眺めながら、通りがゝりに見知つてゐた内田の家の近所の商人宿を指して行つた。ほんの電報を打つたりする位ゐの金しか残つてゐなかつた。
翌日は二月の十五日で、私が鎌倉を出てから丁度十五日経つてゐた。九時頃に起きて早速東京の弟のところへ二十円電報為替で送るやうに書
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