めて、今度は兄さんに頼んで見た。
「それでは兎に角どう云ふ事情になつて居るのかあれにも訊いて見ませう。何しろ見かけのやうでなく商人なんてものは内が苦しいもんですから……」兄さんは斯う熱のない調子で云つて出て行つた。
二時間ばかしも寒い店さきに腰をかけて待つてゐた。旧暦の年始客が手拭買ひに寄つたり、近所の内儀さんが子供の木綿縞を半反買ひに来たりして、十六七の小僧が相手になつてゐた。
「遅くなりまして。途中で年始客の酔払ひにつかまつたものですから、……どうも失礼しました」兄さんは幾らか赤い顔して帰つて来たが、
「いや、あれも別段激昂してると云ふ訳でもないやうですが、さうした方が、あなたの為めにもいゝと云ふんでして。……やはり一応お帰りになつて金策なさつた方がいゝでせう」
「さうでしたか。どうもご苦労さまでした」と、私も予期してゐたことながら当惑して、
「どうも仕方がありませんね。それで、帰るとしてももう時間が遅いし、どこか他の宿屋へ行つて事情を話して返事の来る間置いて貰ひたいと思ふんですが、それで誠に申し兼ねますが袴をお預けしますから五円だけ貸していたゞけますまいか」と、今度は五円と云ひ
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