を受けた時、彼は陰嚢水腫の手術を受けに出て来て、その時からの知合であつた。二月上旬の霙の降つた寒い日であつた。一番目が兵隊あがりのやはり痔の患者、二番目が彼で、やがてまだ死人のやうに睡つてゐる彼が手押車で廊下から患者の控室に運び込まれたが、時々不気味な呻り声を出して出歯の口を開けた蒼醒めた顔は、かなり醜い印象を私に与へたものであつた。その時附添つて来たのが兄さんであつた。それから六十日程の間私達は隔日に顔を合はして、お互ひに訪問し合つたりするほど懇意になつた。そして病院の裏の桜の咲き初めた時分、ほんの二三日の違ひで病院から解放されることになり、若かつた私達は互ひに懐しい気持で別れることになつた。それから不思議にも二三年置き位ゐに私達は会つてゐた。私が帰郷の途中彼のところへ寄つたり、彼が上京の度に下宿に訪ねて来たりした。四五年前であつた。彼は慢性の花柳病治療の為め上京して、私が案内して神田の方の某専門大家を訪ねて診察を受けたところ、彼の予算とは何層倍の費用がかゝりさうなのに嚇かされて、彼は治療を断念した。そして、彼が持つて来た金で二人で神楽坂の待合で遊んだ。その割前を厳しく彼から請求され
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