て来たか険しい顔して座るなり、
「今度はたゞでは延ばすまいから君の持つてるものを質入れして幾らかでも入れることにするから、君の持つてるものを出せ」と云ひ出した。
「そんな馬鹿なこと出来やしないよ。後幾日のことでもなし、そんな訳なら東京へ手紙を出して金を拵へることにする……そんなこと出来るもんか」と、私もムツとして云つた。
「そんなら俺の方でも引受けられないよ。何が馬鹿なことなんだ。金が無くて払へなければ、さうするのが当然ぢやないか」
「そりやさうかも知れないが、しかし二三日中にも片附けられるんだから、そんなことまでせんだつていゝ」
「だつて宿で待たないと云つてるから仕方がないぢやないか」
「だからそこを君からもう一度話して呉れたらいゝぢやないか」
「俺としてもたゞでは話が出来ないぢやないか。幾らか内金でも入れて、それで後二三日待つて呉れとでも云はなければ、宿でだつて聞き入れやしないよ。だから出せ……」
「厭だよ……」
「わからないなあ君も。兎に角宿では君のやうなお客さんはご免だと云つてるんだから、金を入れると云つたつて今度は何と云ふか知れやしないんだぜ。だから兎に角品物を出せ」
「仕様
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