ればこの人生という処は実に堪え難い処だ! 併し食わなければならぬという事が、人間から好い感興性を奪い去ると同時に悪い感興性の弾力をも奪い取って了うのだ。そして穴のあいたゴム鞠にして了うのだ――
「そうだ、感興性を失った芸術家の生活なんて、それは百姓よりも車夫よりもまたもっと悪い人間の生活よりも、悪い生活だ。……それは実に悪生活だ!」
 ポカンと眼を開けて無意味に踊り子の厭らしい踊りに見恍《みと》れていた彼は、彼等の出て行く後姿を見遣りながら、斯うまた自分に呟いたのだ。そして、「自分の子供等も結局あの踊り子のような運命になるのではないか知らん?」と思うと、彼の頭にも、そうした幻影が悲しいものに描かれて、彼は小さな二女ひとり伴れて帰ったきり音沙汰の無い彼の妻を、憎い女だと思わずにいられなかった。
「併し、要するに、皆な自分の腑甲斐ない処から来たのだ。彼女《あれ》は女だ。そしてまた、自分が嬶《かかあ》や子供の為めに自分を殺す気になれないと同じように、彼女だってまた亭主や子供の為めに乾干《ひぼし》になると云うことは出来ないのだ」彼はまた斯うも思い返した。……
「お父さんもう行きましょうよ」

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