る二人の若い法學士――F君は二十五、N君は二十四――二人とも學校を出てすぐ大藏省に入つたのだが、試驗準備中は何ヶ月役所を休んでゐても月給が貰へるのだと云ふ、羨ましいやうな身の上の青年たちだつた。彼等は白根山、太郎山などと、毎日のやうに冐險的な山登りをやつてゐた。足にも身體にも自信のない自分は、精々湯の湖畔を一周して石楠花のステツキを搜したり、サビタの木のパイプを伐りに出かけるやうな時に彼等のお伴をしたが、すつかり懇意になつてゐた。がN君は成績發表前、月初めに歸京して、廣い宿にF君と自分の二人だけになつた。それからぢき成績が發表されたが、二人とも見事にパスしてゐた。
 十日頃に自分の仕事も一片附いたので、それからは、天氣さへいゝと、F君につれられて、蓼沼、金精峠などと、自分も靴に卷ゲートル着けて、そこら中を歩き※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つて、はつきりしない金の當てを待つてゐるもどかしさ、所在なさの日を紛らして送つてゐた。晩には大抵、自分の部屋か、彼の部屋かで酒を飮みながら話し合つた。畠違ひの斯うした青年と近づきを持たない自分に、F君は未來のある新時代の青年官吏――官吏と云
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