うか。それではお前はおれの抱《かゝ》へ医者《いしや》になるか――」斯《か》う、万事を呑込んでゐるやうな鷹揚《おうやう》な態度で云ふのであつた。それを傍《そば》から見てゐた父は、わが子のその態度やものの云ひぶりに、覚えず微笑させられたのである。……
それが夢なのである。彼には幾日かその夢の場の印象がはつきりと浮かべられてゐた。それは非常に大きなユーモアのやうにも考へられるのである。また子供といふものの如何《いか》にさかんなる矜《ほこ》りに生きて居るかと云ふことを思はしめるのである。それからまた、辛うじて医薬によつて支《さゝ》へられてゐた彼の父の三十幾年と云ふ短い生涯から彼自身の健康状態から考へて、子供の未来に、暗い運命の陰影を予想しないわけに行かないのであつた。
五
久しぶりで郷里の母から手紙があつた。母は彼女の孫をつれて、ひと月余り山の温泉に行つてて、帰つて来たばかりのところなのである。
彼女は彼女の一粒の子と、一粒の孫とを保護するためにこの世に生れて来、活《い》きてゐるやうな女であつた。そして月に幾度となく彼女の不幸な孫の消息について、こま/″\と書き送りもし
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