それでやう/\不定な睡眠をとることにしてゐる。そして病的に過敏になつた彼の神経は、そこらを嗅《か》ぎ廻るやうに閃《ひら》めき動いて、女中を通して、自分のこの室にも病人がゐて、それが彼のはひる少し前に不治の身体になつて帰郷したのだと云ふことや、こゝの主人も丁度昨年の今頃|亡《な》くなつたのだと云ふことなど、断片的にきゝ出し得たのであつた。
 彼は毎晩いやな重苦しい夢になやまされた。

 ……彼の子供は裸体《はだか》になつてゐた。ムク/\と堅く肥え太つて、腹部が健康さうにゆるやかな線に波打つてゐる。そして彼にはいつか二三人の弟妹が出来てゐるのであつた。室は広くあけ放してあつて、青青とした畳は涼しさうに見える。そこには子供の祖父も、祖母も弟妹もゐるのだが、みんなはゴロ/\寝ころんでゐる。唯《たゞ》彼ひとりが、ムクムクと堅く肥え太つて、ゆるやかに張つたお腹を突き出して、非常に威張つた姿勢をして、手を振つて大股《おほまた》に室の中を歩いてゐるのであつた。
 ふと、ペラ/\な黒紋附を着た若い男がはひつて来て、坐つて何か云つてるやうであつた。すると子供は歩くのを止《や》めて、ちよつと突立つて、
「さ
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