《ら》を侮るぞ。われ曹|疾《と》くより爾が罪を知れり。たとひ言葉を巧《たくみ》にして、いひのがれんと計るとも、われ曹いかで欺かれんや。重ねて虚誕《いつわり》いへぬやう、いでその息の根止めてくれん」ト、※[#「口+畫」、110−10]叫《おめきさけ》んで飛びかかるほどに。元より悟空《ごくう》が神通なき身の、まいて酒に酔ひたれば、争《いか》で犬にかなふべき、黒衣は忽ち咬《く》ひ殺されぬ。
第十六回
鷲郎は黒衣が首級《くび》を咬ひ断離《ちぎ》り、血祭よしと喜びて、これを嘴《くち》に提《ひっさ》げつつ、なほ奥深く辿《たど》り行くに。忽ち路|窮《きわ》まり山|聳《そび》えて、進むべき岨道《そばみち》だになし。「こは訝《いぶ》かし、路にや迷ふたる」ト、彼方《あなた》を透《すか》し見れば、年|経《ふ》りたる榎《えのき》の小暗《おぐら》く茂りたる陰に、これかと見ゆる洞ありけり。「さては金眸が棲居《すみか》なんめり」ト、なほ近く進み寄りて見れば、彼の聴水がいひしに違《たが》はず、岩高く聳えて、鑿《のみ》もて削れるが如く、これに鬼蔦の匐《は》ひ付きたるが、折から紅葉《もみじ》して、さながら
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