絵がける屏風《びょうぶ》に似たり。また洞の外には累々たる白骨の、堆《うずたか》く積みてあるは、年頃金眸が取り喰《くら》ひたる、鳥獣《とりけもの》の骨なるべし。黄金丸はまづ洞口《ほらぐち》によりて。中《うち》の様子を窺《うかが》ふに、ただ暗うして確《しか》とは知れねど、奥まりたる方《かた》より鼾《いびき》の声高く洩《も》れて、地軸の鳴るかと疑はる。「さては他《かれ》なほ熟睡《うまい》してをり、この隙《ひま》に跳《おど》り入らば、輒《たやす》く打ち取りてん」ト。黄金丸は鷲郎と面《おもて》を見合せ、「脱《ぬかり》給ふな」「脱りはせじ」ト、互に励ましつ励まされつ。やがて両犬進み入りて、今しも照射《ともし》ともろともに、岩角《いわかど》を枕として睡《ねぶ》りゐる、金眸が脾腹《ひばら》を丁《ちょう》と蹴《け》れば。蹴られて金眸|岸破《がば》と跳起《はねお》き、一声|※[#「口+皐」、第4水準2−4−33]《ほ》えて立上らんとするを、起しもあへず鷲郎が、襟頭《えりがみ》咬《く》はへて引据ゆれば。その隙《ひま》に逃げんとする、照射は洞の出口にて、文角がために突止められぬ、この時黄金丸は声をふり立て、「
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