ら。このほど大王|何処《いずく》よりか、照射《ともし》といへる女鹿《めじか》を連れ給ひ、そが容色に溺《おぼ》れたまへば、われ曹《ら》が寵《ちょう》は日々に剥《そ》がれて、私《ひそ》かに恨めしく思ひしなり。かくて僕|去《いぬ》る日、黄金ぬしに追れしより、かの月丸《つきまる》が遺児《わすれがたみ》、僕及び大王を、仇敵《かたき》と狙ふ由なりと、金眸に告げしかば。他《か》れもまた少しく恐れて、件《くだん》の鯀化、黒面などを呼びよせ、洞ちかく守護さしつつ、自身《おのれ》も佻々《かるがる》しく他出《そとで》したまはざりしが。これさへ昨日黒衣めが、和殿を打ちしと聞き給ひ、喜ぶこと斜《ななめ》ならず、忽《たちま》ち守護《まもり》を解かしめつ。今宵は黄金丸を亡き者にせし祝《いわい》なりとて、盛《さかん》に酒宴を張らせたまひ。僕もその席に侍りて、先のほどまで酒|酌《く》みしが、独り早く退《まか》り出《いで》つ、その帰途《かえるさ》にかかる状態《ありさま》、思へば死神の誘ひしならん」ト。いふに黄金丸は立上りて、彼方《あなた》の山を佶《きっ》と睨《にら》めつ、「さては今宵彼の洞にて、金眸はじめ配下の獣|們《ら
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