|仇敵《かたき》と附狙《つけねら》はれては、何時《いつ》また怎麼なる事ありて、われ遂に討たれんも知れず。とかく和殿を亡き者にせでは、わが胸到底安からじト、左様右様《とさまこうさま》思ひめぐらし。機会《おり》を窺《うかが》ふとも知らず、和殿は昨日彼の痍《きず》のために、朱目の翁を訪れたまふこと、私《ひそ》かに聞きて打ち喜び。直ちにわが腹心の友なる、黒衣と申す猿に頼みて、途中に和殿を射させしに、見事仕止めつと聞きつるが。……さては彼奴《きゃつ》に欺かれしか」ト。いへば黄金丸|呵々《からから》と打ち笑ひ、「それにてわれも会得したり。いまだ鷲郎にも語らざりしが。昨日朱目が許より帰途《かえるさ》、森の木陰を通りしに、われを狙ふて矢を放つものあり。畢竟《ひっきょう》村童們《さとのこら》が悪戯《いたずら》ならんと、その矢を嘴《くち》に咬《く》ひ止めつつ、矢の来し方《かた》を打見やれば。こは人間と思ひのほか、大《おおい》なる猿なりければ。憎《にっく》き奴めと睨《にら》まへしに、そのまま這奴《しゃつ》は逃げ失《う》せぬ。されどもわれ彼の猿に、意恨《うらみ》を受くべき覚《おぼえ》なければ、何故《なにゆえ》
前へ
次へ
全89ページ中74ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
巌谷 小波 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング