るも、やはかその計《て》に乗るべきぞ」ト、いへば聴水|頭《こうべ》を打ちふり、「その猜疑《うたがい》は理《ことわり》なれど、僕《やつがれ》すでに罪を悔い、心を翻へせしからは、などて卑怯《ひきょう》なる挙動《ふるまい》をせんや。さるにても黄金ぬしは、怎麼《いか》にしてかく恙《つつが》なきぞ」ト。訝《いぶか》り問へば冷笑《あざわら》ひて、「われ実《まこと》に爾《なんじ》に誑《たばか》られて、去《いぬ》る日|人間《ひと》の家に踏み込み、太《いた》く打擲《ちょうちゃく》されし上に、裏の槐《えんじゅ》の樹《き》に繋《つな》がれて、明けなば皮も剥《はが》れんずるを、この鷲郎に救ひ出《いだ》され、危急《あやう》き命は辛く拾ひつ。その時足を挫《くじ》かれて、霎時《しばし》は歩行もならざりしが。これさへ朱目《あかめ》の翁《おきな》が薬に、かく以前《もと》の身になりにしぞ」ト、足踏《あしぶみ》して見すれば。聴水は皆まで聞かず、「いやとよ、和殿が彼時《かのとき》人間《ひと》に打たれて、足を傷《やぶ》られたまひし事は、僕|私《ひそ》かに探り知れど。僕がいふはその事ならず。――さても和殿に追はれし日より、わが身
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