は爾をば、われ曹三匹|更《かわ》る更る。角に掛け牙に裂き、思ひのままに憂苦《うきめ》を見せん。もしまたいはば一思ひに、息の根止めて楽に死なさん。とても逃れぬ命なれば、臨終《いまわ》の爾が一言にて、地獄にも落ち極楽にも往かん。とく思量《しあん》して返答せよ」ト、あるいは威《おど》しあるいは賺《すか》し、言葉を尽していひ聞かすれば。聴水は何思ひけん、両眼より溢落《はふりおつ》る涙|堰《せ》きあへず。「ああわれ誤てり誤てり。道理《ことわり》切《せ》めし文角ぬしが、今の言葉に僕《やつがれ》が、幾星霜《いくとしつき》の迷夢|醒《さ》め、今宵ぞ悟るわが身の罪障思へば恐しき事なりかし。とまれ文角ぬし、和殿《わどの》が言葉にせめられて、今こそ一|期《ご》の思ひ出に、聴水物語り候べし。黄金ぬしも聞き給へ」ト、いひつつ咳《しわぶき》一咳《ひとつ》して、喘《ほ》と吻《つ》く息も苦しげなり。
第十四回
この時文角は、捕へし襟頭《えりがしら》少し弛《ゆる》めつ、されども聊《いささ》か油断せず。「いふ事あらば疾《と》くいへかし。この期に及びわれ曹《ら》を欺き、間隙《すき》を狙《ねら》ふて逃げんとす
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