すか》し見れば。何時《いつ》のほどにか来りけん、これなん黄金丸が養親《やしないおや》、牡牛《おうし》文角《ぶんかく》なりけるにぞ。「これはこれは」トばかりにて、二匹は再び魂《きも》を消しぬ。
第十三回
恁《かか》る処へ文角の来らんとは、思ひ設けぬ事なれば、黄金丸驚くこと大方ならず。「珍らしや文角ぬし。什麼《そも》何として此処には来《きたり》たまひたる。そはとまれかくもあれ、その後《のち》は御健勝にて喜ばし」ト、一礼すれば文角は点頭《うなず》き、「その驚きは理《ことわり》なれど、これには些《ちと》の仔細あり。さて其処にゐる犬殿は」ト、鷲郎《わしろう》を指《ゆびさ》し問へば。黄金丸も見返りて、「こは鷲郎ぬしとて、去《いぬ》る日|斯様々々《かようかよう》の事より、図らず兄弟の盟《ちか》ひをなせし、世にも頼もしき勇犬なり。さて鷲郎この牛殿は、日頃|某《それがし》が噂《うわさ》したる、養親の文角ぬしなり」ト、互に紹介《ひきあわ》すれば。文角も鷲郎も、恭《うやうや》しく一礼なし、初対面の挨拶《あいさつ》もすめば。黄金丸また文角にむかひて、「さるにても文角ぬしには、怎麼《いか》なる仔
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