ば、忽ち発止《ぱっし》と物音して、その身の頸《くび》は物に縛《し》められぬ。「南無三《なむさん》、罠《わな》にてありけるか。鈍《おぞ》くも釣《つ》られし口惜《くちお》しさよ。さばれ人間《ひと》の来らぬ間に、逃《のが》るるまでは逃れて見ん」ト。力の限り悶掻《もが》けども、更にその詮《せん》なきのみか咽喉《のど》は次第に縊《しば》り行きて、苦しきこといはん方《かた》なし。
恁《かか》る処へ、左右の小笹|哦嗟々々《がさがさ》と音して、立出《たちいず》るものありけり。「さてはいよいよ猟師《かりうど》よ」ト、見やればこれ人間《ひと》ならず、いと逞《たく》ましき二匹の犬なり。この時|右手《めて》なる犬は進みよりて、「やをれ聴水われを見識《みし》れりや」ト、いふに聴水|覚束《おぼつか》なくも、彼の犬を見やれば、こは怎麼《いか》に、昨日黒衣に射らせたる黄金丸なるに。再び太《いた》く驚きて、物いはんとするに声は出でず、眼《まなこ》を見はりて悶《もだ》ゆるのみ。犬はなほ語を続《つ》ぎて、「怎麼に苦しきか、さもありなん。されど耳あらばよく聞けかし。爾《なんじ》よくこそわが父を誑《たぶら》かして、金眸には咬
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