て酔《えい》も十二分にまはりけん、照射《ともし》が膝を枕にして、前後も知らず高鼾《たかいびき》、霎時《しばし》は谺《こだま》に響きけり。かくて時刻も移りしかば、はや退《まか》らんと聴水は、他の獣|們《ら》に別《わかれ》を告げ、金眸が洞を立出でて、※[#「人べん+稜のつくり」、98−15]※[#「人べん+登」、98−15]《よろめ》く足を踏〆《ふみし》め踏〆め、わが棲居《すみか》へと辿《たど》りゆくに。この時《とき》空は雲晴れて、十日ばかりの月の影、隈《くま》なく冴《さ》えて清らかなれば、野も林も一面《ひとつら》に、白昼《まひる》の如く見え渡りて、得も言はれざる眺望《ながめ》なるに。聴水は虚々《うかうか》と、わが棲《す》へ帰ることも忘れて、次第に麓《ふもと》の方《かた》へ来りつ、只《と》ある切株に腰うちかけて、霎時《しばし》月を眺めしが。「ああ、心地|好《よ》や今日の月は、殊更《ことさら》冴え渡りて見えたるぞ。これも日頃|気疎《けぶた》しと思ふ、黄金|奴《め》を亡き者にしたれば、胸にこだはる雲霧の、一時に晴れし故なるべし。……さても照りたる月|哉《かな》、われもし狸ならんには、腹鼓も打た
前へ 次へ
全89ページ中63ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
巌谷 小波 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング