《ふるごも》を拾ひきつ、これに肴を包みて上より縄《なわ》をかけ。件《くだん》の弓をさし入れて、人間《ひと》の駕籠《かご》など扛くやうに、二匹|前後《まえうしろ》にこれを担《にな》ひ、金眸が洞へと急ぎけり。

     第十二回

 聴水黒衣の二匹の獣は、彼の塩鮭《しおざけ》干鰯《ほしか》なんどを、総《すべ》て一包みにして、金眸が洞へ扛きもて往き。やがてこれを調理して、数多《あまた》の獣類《けもの》を呼び集《つど》ひ、酒宴を初めけるほどに。皆々黒衣が昨日の働きを聞て、口を極めて称賛《ほめそや》すに、黒衣はいと得意顔に、鼻|蠢《うご》めかしてゐたりける。金眸も常に念頭《こころ》に懸《か》けゐて、後日の憂ひを気遣ひし、彼の黄金丸を失ひし事なれば、その喜悦《よろこび》に心|弛《ゆる》みて、常よりは酒を過ごし、いと興づきて見えけるに。聴水も黒衣も、茲《ここ》を先途《せんど》と機嫌《きげん》を取り。聴水が唄《うた》へば黒衣が舞ひ、彼が篠田《しのだ》の森を躍《おど》れば、これはあり合ふ藤蔓《ふじづる》を張りて、綱渡りの芸などするに、金眸ますます興に入りて、頻《しき》りに笑ひ動揺《どよ》めきしが。やが
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