たる肴を一ツに拾ひ集め、これを山へ運ばんとするに。層《かさ》意外《おもいのほか》に高くなりて、一匹にては持ても往かれず。さりとて残し置かんも口惜し、こは怎麼《いか》にせんと案じ煩ひて、霎時《しばし》彳《たたず》みける処に。彼方《あなた》の森の陰より、驀地《まっしぐら》に此方《こなた》をさして走《は》せ来る獣あり。何者ならんと打見やれば。こは彼の黒衣にて。小脇に弓矢をかかへしまま、側目《わきめ》もふらず走り過ぎんとするに。聴水は連忙《いそがわ》しく呼び止めて、「喃々《のうのう》、黒衣ぬし待ちたまへ」と、声を掛《かく》れば。漸くに心付きし乎《か》、黒衣は立止まり、聴水の方《かた》を見返りしが。ただ眼を見張りたるのみにて、いまだ一言も発し得ぬに。聴水は可笑《おか》しさを堪《こら》えて、「慌《あわただ》し何事ぞや。面《おもて》の色も常ならぬに……物にや追はれ給ひたる」ト、問《とい》かくれば。黒衣は初めて太息《といき》吻《つ》き、「さても恐しや。今かの森の中にて、黄金《こがね》……黄金色なる鳥を見しかば。一矢に射止めんとしたりしに、豈《あに》計らんや他《かれ》は大《おおい》なる鷲《わし》にて、わ
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