#ここで割り注終わり])の智勇ありとも、わが大王に牙向《はむか》はんこと蜀犬《しょっけん》の日を吠《ほ》ゆる、愚を極めし業《わざ》なれども。大王これを聞《きこ》し召して、聊《いささ》か心に恐れ給へば、佻々《かるがる》しくは他出《そとで》もしたまはず。さるを今《いま》和主が、一|箭《ぜん》の下《もと》に射殺《いころ》したれば、わがために憂《うれい》を去りしのみか、取不直《とりもなおさず》大王が、眼上《めのうえ》の瘤《こぶ》を払ひしに等し。今より後は大王も、枕を高く休みたまはん、これ偏《ひと》へに和主が働き、その功実に抜群なりかし。われはこれより大王に見《まみ》え、和主が働きを申上げて、重き恩賞得さすべし。」とて、いと嬉しげに立去りけり。
第十一回
かくて聴水は、黒衣《こくえ》が棲居《すみか》を立出でしが、他《かれ》が言葉を虚誕《いつわり》なりとは、月に粲《きら》めく路傍《みちのべ》の、露ほども暁得《さと》らねば、ただ嬉しさに堪えがたく、「明日よりは天下晴れて、里へも野へも出らるるぞ。喃《のう》、嬉れしやよろこばしや」ト。永《なが》く牢《ひとや》に繋《つなが》れし人間《ひと
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