》より来りけん一人の大男、思ふに撲犬師《いぬころし》なるべし、手に太やかなる棒持ちたるが、歩み寄《よっ》てわれを遮《さえぎ》り、なほ争はば彼の棒もて、われを打たんず勢《いきおい》に。われも他《かれ》さへ亡きものにせば、躯はさのみ要なければ、わが功名《てがら》を横奪《よこどり》されて、残念なれども争ふて、傷《きずつ》けられんも無益《むやく》しと思ひ、そのまま棄てて帰り来ぬ。されども聴水ぬし、他《かれ》は確《たしか》に仕止めたれば、証拠の躯はよし見ずとも、心強く思はれよ。ああ彼の黄金丸も今頃は、革屋《かわや》が軒に鉤下《つりさ》げられてん。思へばわれに意恨《うらみ》もなきに、無残なことをしてけり」ト、事実《まこと》しやかに物語れば、聴水喜ぶこと斜《ななめ》ならず、「こは有難し、われもこれより気強くならん。原来彼の黄金丸は、われのみならず畏《かしこ》くも、大王までを仇敵《かたき》と狙《ねら》ふて、他《かれ》が足痍《あしのきず》愈《いえ》なば、この山に討入《うちいり》て、大王を噬《か》み斃《たお》さんと計る由。……怎麼《いか》に他《かれ》獅子《しし》([#ここから割り注]畑時能が飼ひし犬の名[
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