阿駒が忠節、賞《ほ》むるになほ言葉なし。……とまれ他《かれ》が願望《のぞみ》に任せ、無残なれども油に揚げ。彼の聴水《ちょうすい》を釣《つり》よせて、首尾よく彼奴《きゃつ》を討取らば、聊《いささ》か菩提《ぼだい》の種《たね》ともなりなん、善は急げ」ト勇み立ちて、黄金丸まづ阿駒の死骸《なきがら》を調理すれば、鷲郎はまた庭に下《お》り立ち、青竹を拾ひ来りて、罠の用意にぞ掛りける。
第十回
不題《ここにまた》彼の聴水は、去《いぬ》る日途中にて黄金丸に出逢ひ、已《すで》に命も取らるべき処を、辛《かろ》うじて身一ツを助かりしが。その時よりして畏気《おじけ》附き、白昼《ひる》は更なり、夜《よ》も里方へはいで来らず、をさをさ油断《ゆだん》なかりしが。その後《のち》他の獣|們《ら》の風聞《うわさ》を聞けば、彼の黄金丸はその夕《ゆうべ》、太《いた》く人間《ひと》に打擲《ちょうちゃく》されて、そがために前足|痿《な》えしといふに。少しく安堵《あんど》の思ひをなし、忍び忍びに里方へ出でて、それとなく様子をさぐれば、その痍《きず》意外《おもいのほか》重くして、日を経《ふ》れども愈《い》えず。さる
前へ
次へ
全89ページ中52ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
巌谷 小波 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング