によつて明日《あす》よりは、木賊《とくさ》ヶ原《はら》の朱目《あかめ》が許《もと》に行きて、療治を乞《こ》はんといふことまで、怎麼《いか》にしけんさぐり知《しり》つ、「こは棄《す》ておけぬ事どもかな、他《かれ》もし朱目が薬によりて、その痍全く愈えたらんには、再び怎麼なる憂苦《うきめ》をや見ん。とかく彼奴《きゃつ》を亡きものにせでは、枕《まくら》を高く眠《ねぶ》られじ」ト、とさまかうさま思ひめぐらせしが。忽ち小膝《こひざ》を礑《はた》と撲《う》ち、「爰《ここ》によき計《はかりごと》こそあれ、頃日《このころ》金眸《きんぼう》大王が御内《みうち》に事《つか》へて、新参なれども忠《まめ》だちて働けば、大王の寵愛《おおぼえ》浅からぬ、彼の黒衣《こくえ》こそよかんめれ。彼の猿弓を引く業《わざ》に長《た》けて、先つ年|他《かれ》が叔父|沢蟹《さわがに》と合戦せし時も、軍功少からざりしと聞く。その後《のち》叔父は臼《うす》に撲《う》たれ、他《かれ》は木から落猿《おちざる》となつて、この山に漂泊《さまよ》ひ来つ、金眸大王に事へしなれど、むかし取《とっ》たる杵柄《きねづか》とやら、一束《ひとつか》の矢|一
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