の阿駒に気は付きたれど。われその必死を救ひながら、今また他《かれ》が命を取らば、怎麼《いか》にも恩を被《き》するに似て、わが身も快くは思はず。とてもかくてもこの外に、鼠を探《さが》し捕《と》らんに如《し》かじ」ト、言葉いまだ畢《おわ》らざるに、忽《たちま》ち「呀《あっ》」と叫ぶ声して、鴨居《かもい》より撲地《はた》ト顛落《まろびおつ》るものあり。二匹は思はず左右に分れ、落ちたるものを佶《きっ》と見れば、今しも二匹が噂《うわさ》したる、かの阿駒なりけるが。なにとかしたりけん、口より血|夥《おびただ》しく流れ出《いず》るに。鷲郎は急ぎ抱《いだ》き起しつ、「こや阿駒、怎麼にせしぞ」「見れば面《おもて》も血に塗《まみ》れたるに、……また猫にや追はれけん」「鼬《いたち》にや襲はれたる」「疾《と》くいへ仇敵《かたき》は討ちてやらんに」ト、これかれ斉《ひと》しく勦《いた》はり問へば。阿駒は苦しき息の下より、「いやとよ。猫にも追はれず、鼬にも襲はれず、妾《わらわ》自らかく成り侍《はべ》り」「さは何故の生害《しょうがい》ぞ」「仔細ぞあらん聞かまほし」ト、また連忙《いそがわ》しく問《とい》かくれば。阿駒は
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