がて笑ひにまぎらしつつ、そのまま中《うち》に引入れて、共に夕餉《ゆうげ》も喰《くら》ひ果てぬ。
 暫《しばらく》して黄金丸は、鷲郎に打向ひて、今日朱目が許《もと》にて聞きし事ども委敷《くわしく》語り、「かかる良計ある上は、速《すみや》かに彼の聴水を、誑《おび》き出《いだ》して捕《とらえ》んず」ト、いへば鷲郎もうち点頭《うなず》き、「狐を釣るに鼠《ねずみ》の天麩羅《てんぷら》を用ふる由は、われ猟師《かりうど》に事《つか》へし故、疾《とく》よりその法は知りて、罠《わな》の掛け方も心得つれど、さてその餌《えば》に供すべき、鼠のあらぬに逡巡《ためら》ひぬ」ト、いひつつ天井を打眺《うちなが》め、少しく声を低めて、「御身がかつて救《たす》けたる、彼の阿駒《おこま》こそ屈竟《くっきょう》なれど。他《かれ》頃日《このごろ》はわれ曹《ら》に狎《なず》みて、いと忠実《まめやか》に傅《かしず》けば、そを無残に殺さんこと、情も知らぬ無神狗《やまいぬ》なら知らず、苟《かり》にも義を知るわが們《ともがら》の、作《な》すに忍びぬ処ならずや」「実《まこと》に御身がいふ如く、われも途《みち》すがら考ふるに、まづ彼《あ》
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