ん》。そは次の巻《まき》を読みて知れかし。

   上巻終
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   下巻

     第九回

 かくて黄金丸は、ひたすら帰途《かえり》を急ぎしが、路程《みちのほど》も近くはあらず、かつは途中にて狼藉せし、猿を追駆《おいか》けなどせしほどに。意外《おもいのほか》に暇どりて、日も全く西に沈み、夕月|田面《たのも》に映る頃《ころ》、漸《ようや》くにして帰り着けば。鷲郎《わしろう》ははや門に馮《よ》りて、黄金丸が帰着《かえり》を待ちわびけん。他《かれ》が姿を見るよりも、連忙《いそがわ》しく走り迎へつ、「※[#「口+約」、89−6]《やよ》、黄金丸、今日はなにとてかくは遅《おそ》かりし。待たるる身より待つわが身の、気遣《きづか》はしさを猜《すい》してよ。去《いぬ》る日の事など思ひ出でて、安き心はなきものを」ト、喞言《かこと》がましく聞ゆれば、黄金丸は呵々《かやかや》と打ち笑ひて、「さな恨みそ。今日は朱目《あかめ》ぬしに引止められて、思はず会話《はなし》に時を移し、かくは帰着《かえり》の後《おく》れしなり。構へて待たせし心ならねば……」ト、詫《わ》ぶるに鷲郎も深くは咎《とが》めず、や
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