、彼の金眸と聴水を、倶不戴天《ぐふたいてん》の仇《あだ》と狙《ねら》ふて、常に油断《ゆだん》なかりしが。去《いぬ》る日|件《くだん》の聴水を、途中にて見付しかば、名乗りかけて討たんとせしに、かへつて他《かれ》に方便《たばか》られて、遂にかかる不覚を取りぬ」ト、彼のときの事|具《つぶさ》に語りつつ、「思へば憎き彼の聴水、重ねて見当らばただ一噬みと、朝夕《あけくれ》心を配《く》ばれども、彼も用心して更に里方へ出でざれば、意恨《うらみ》を返す手掛りなく、無念に得堪えず候」ト、いひ畢《おわ》りて切歯《はがみ》をすれば、朱目も点頭《うなず》きて、「御身が心はわれとく猜《すい》しぬ、さこそ無念におはすらめ。さりながら黄金ぬし。御身|実《まこと》に他《かれ》を討たんとならば。われに好《よ》き計略《はかりごと》あり、及ばぬまでも試み給はずや、凡《およ》そ狐《きつね》狸《たぬき》の類《たぐい》は、その性質《さが》至《いたっ》て狡猾《わるがしこ》く、猜疑《うたがい》深き獣なれば、憖《なまじ》いに企《たく》みたりとも、容易《たやす》く捕へ得つべうもあらねど。その好む処には、君子も迷ふものと聞く、他《かれ》が
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