》の劫量《こうろう》を歴《へ》て、やや神通を得てしかば、自《おのずか》ら獣の相を見ることを覚えて、十《とお》に一《ひとつ》も誤《あやまり》なし。今御身が相を見るに、世にも稀《まれ》なる名犬にして、しかも力量《ちから》万獣《ばんじゅう》に秀《ひい》でたるが、遠からずして、抜群の功名あらん。某この年月《としつき》数多《あまた》の獣に逢ひたれども、御身が如きはかつて知らず。思ふに必ず由緒《よし》ある身ならん、その素性聞かまほし」トありしかば。黄金丸少しもつつまず、おのが素性来歴を語れば。朱目は聞いて膝を打ち。「それにてわれも会得《えとく》したり。総じて獣類《けもの》は胎生なれど、多くは雌雄|数匹《すひき》を孕《はら》みて、一親一子はいと稀なり。さるに御身はただ一匹にて生まれしかば、その力五、六匹を兼ねたり。加之《しかのみならず》牛に養はれて、牛の乳に育《はぐく》まれしかば、また牛の力量をも受得《うけえ》て、けだし尋常《よのつね》の犬の猛きにあらず。さるに怎麼《いか》なればかく、鈍《おぞ》くも足を傷《やぶ》られ給ひし」ト、訝《いぶ》かり問へば黄金丸は、「これには深き仔細《しさい》あり。原来某は
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