んぎん》に前足をつかへ、「昨日よりの大雪に、外面《そとも》に出《いず》る事もならず、洞にのみ籠り給ひて、さぞかし徒然《つれづれ》におはしつらん」トいへば。金眸は身を起こして、「※[#「口+愛」、第3水準1−15−23]《オー》聴水なりしか、よくこそ来りつれ。実《まこと》に爾《なんじ》がいふ如く、この大雪にて他出《そとで》もならねば、独り洞に眠りゐたるに、食物《かて》漸く空《むな》しくなりて、やや空腹《ものほし》う覚ゆるぞ。何ぞ好《よ》き獲物はなきや、……この大雪なればなきも宜《むべ》なり」ト嘆息するを。聴水は打消し、「いやとよ大王。大王もし実《まこと》に空腹《ものほし》くて、食物《かて》を求め給ふならば、僕《やつがれ》好き獲物を進《まいら》せん」「なに好き獲物とや。……そは何処《いずこ》に持来りしぞ」「否《いな》。此処《ここ》には持ち侍《はべ》らねど、大王|些《ちと》の骨を惜まずして、この雪路《ゆきみち》を歩みたまはば、僕よき処へ東道《あんない》せん。怎麼《いか》に」トいへば。金眸|呵々《からから》と打笑ひ、「やよ聴水。縦令《たと》ひわれ老いたりとて、焉《いずく》ンぞこれしきの雪を恐れ
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