》に、眼《まなこ》紅《くれない》に光ありて、一目《みるから》尋常《よのつね》の兎とも覚えぬに。黄金丸はまづ恭《うやうや》しく礼を施し、さて病の由を申聞《もうしきこ》えて、薬を賜はらんといふに、彼の翁心得て、まづその痍《きず》を打見やり、霎時《しばし》舐《ねぶ》りて後、何やらん薬をすりつけて。さていへるやう、「わがこの薬は、畏《かしこ》くも月宮殿《げっきゅうでん》の嫦娥《じょうが》、親《みずか》ら伝授したまひし霊法なれば、縦令《たとい》怎麼《いか》なる難症なりとも、とみに癒《いゆ》ること神《しん》の如し。今御身が痍を見るに、時期《とき》後《おく》れたればやや重けれど、今宵《こよい》の中《うち》には癒やして進ずべし。ともかくも明日《あす》再び来たまへ、聊《いささ》か御身に尋ねたき事もあれば……」ト、いふに黄金丸打よろこび、やがて別を告げて立帰りしが。途《みち》すがら只《と》ある森の木陰を過《よぎ》りしに、忽ち生茂《おいしげ》りたる木立の中《うち》より、兵《ひょう》ト音して飛び来る矢あり。心得たりと黄金丸は、身を捻《ひね》りてその矢をば、発止《はっし》ト牙に噬《か》みとめつ、矢の来し方《かた
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