り帰りて、黄金丸にいへるやう、「やよ黄金丸喜びね。某《それがし》今日|好《よ》き医師《くすし》を聞得たり」トいふに。黄金丸は膝《ひざ》を進め、「こは耳寄りなることかな、その医師とは何処《いずこ》の誰《たれ》ぞ」ト、連忙《いそが》はしく問へば、鷲郎は荅《こた》へて、「さればよ。某今日里に遊びて、古き友達に邂逅《めぐりあ》ひけるが。その犬語るやう、此処を去ること南の方一里ばかりに、木賊《とくさ》が原といふ処ありて、其処に朱目《あかめ》の翁《おきな》とて、貴《とうと》き兎住めり。この翁若き時は、彼の柴刈《しばか》りの爺《じじ》がために、仇敵《かたき》狸《たぬき》を海に沈めしことありしが。その功によりて月宮殿《げっきゅうでん》より、霊杵《れいきょ》と霊臼《れいきゅう》とを賜はり、そをもて万《よろず》の薬を搗《つ》きて、今は豊《ゆたか》に世を送れるが。この翁が許《もと》にゆかば、大概《おおかた》の獣類《けもの》の疾病《やまい》は、癒えずといふことなしとかや。その犬も去《いぬ》る日|村童《さとのこ》に石を打たれて、左の後足《あとあし》を破られしが、件《くだん》の翁が薬を得て、その痍《きず》とみに癒
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