》きて、何くれとなく忠実《まめやか》に働くにぞ、黄金丸もその厚意《こころ》を嘉《よみ》し、情《なさけ》を掛《かけ》て使ひけるが、もとこの阿駒といふ鼠は、去る香具師《こうぐし》に飼はれて、種々《さまざま》の芸を仕込まれ、縁日の見世物《みせもの》に出《いで》し身なりしを、故《ゆえ》ありて小屋を忍出で、今この古刹《ふるでら》に住むものなれば。折々は黄金丸が枕辺にて、有漏覚《うろおぼ》えの舞の手振《てぶり》、または綱渡り籠抜《かごぬ》けなんど。古《むか》し取《とっ》たる杵柄《きねづか》の、覚束《おぼつか》なくも奏《かな》でけるに、黄金丸も興に入りて、病苦もために忘れけり。
第八回
黄金丸が病に伏してより、やや一月にも余りしほどに、身体《みうち》の痛みも失《う》せしかど、前足いまだ癒《い》えずして、歩行もいと苦しければ、心|頻《しき》りに焦燥《いらち》つつ、「このままに打ち過ぎんには、遂に生れもつかぬ跛犬となりて、親の仇《あだ》さへ討ちがたけん。今の間《あいだ》によき薬を得て、足を癒《いや》さでは叶《かな》ふまじ」ト、その薬を索《たずね》るほどに。或日鷲郎は慌《あわただ》しく他よ
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