つて他《かれ》を窘《たしな》めしが。かくても思切れずやありけん、今しも妾が巣に忍び来て、無残にも妾が雄を噬みころし、妾を奪ひ去らんとするより、逃げ惑ふて遂にかく、殿の枕辺《まくらべ》を騒がせし、無礼の罪は許したまへ」ト、涙ながらに物語れば、黄金丸も不憫の者よト、件《くだん》の鼠を慰めつつ、彼の烏円を尻目《しりめ》にかけ、「さりとては憎き猫かな。這奴《しゃつ》はいぬる日わが鳥を、盗み去りしことあれば、われまた意恨《うらみ》なきにあらず。年頃なせし悪事の天罰、今報ひ来てかく成りしは、実《まこと》に気味よき事なりけり」ト、いふ折から彼の鷲郎は、小鳥二、三羽|嘴《くち》に咬《く》はへて、猟《かり》より帰り来りしが。この体態《ていたらく》を見て、事の由来《おこり》を尋ぬるに、黄金丸はありし仕末を落ちなく語れば。鷲郎もその功労《てがら》を称賛しつ、「かくては御身が疾病《いたつき》も、遠ほからずして癒ゆべし」など、いひて共に打ち興じ。やがて持ち来りし小鳥と共に、烏円が肉を裂きて、思ひのままにこれを喰《くら》ひぬ。
 さてこの時より彼の阿駒は、再生の恩に感じけん、朝夕《あけくれ》黄金丸が傍に傅《かしず
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