体《みうち》の痍《きず》を舐《ねぶ》りつつ、「怎麼《いか》にや黄金丸、苦しきか。什麼《そも》何としてこの状態《ありさま》ぞ」ト、かつ勦《いた》はりかつ尋ぬれば。黄金丸は身を震はせ、かく縛《いまし》められし事の由来《おこり》を言葉短に語り聞かせ。「とかくは此処を立ち退《の》かん見付けられなば命危し」ト、いふに鷲郎も心得て、深痍《ふかで》になやむ黄金丸をわが背に負ひつ、元入りし穴を抜け出でて、わが棲居《すみか》へと急ぎけり。

     第七回

 鷲郎に助けられて、黄金丸は漸く棲居へ帰りしかど、これより身体《みうち》痛みて堪えがたく。加之《しかのみならず》右の前足|骨《ほね》挫《くじ》けて、物の用にも立ち兼ぬれば、口惜《くや》しきこと限りなく。「われこのままに不具の犬とならば、年頃の宿願いつか叶《かな》へん。この宿願叶はずば、養親《やしないおや》なる文角ぬしに、また合すべき面《おもて》なし」ト、切歯《はぎしり》して掻口説《かきくど》くに、鷲郎もその心中|猜《すい》しやりて、共に無念の涙にくれしが。「さな嘆きそ。世は七顛八起《ななころびやおき》といはずや。心静かに養生せば、早晩《いつか》は
前へ 次へ
全89ページ中33ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
巌谷 小波 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング