出逢《であい》て、かく頼もしき伴侶《とも》を得ること、実《まこと》に亡《なき》父の紹介《ひきあわせ》ならん。さきに路を照らせし燐火《おにび》も、今こそ思ひ合はしたれ」ト、独《ひと》り感涙にむせびしが。猟犬は霎時《しばし》ありて、「某今御身と契《ちぎり》を結びて、彼の金眸を討たんとすれど、飼主ありては心に任せず。今よりわれも頸輪《くびわ》を棄《すて》て、御身と共に失主狗《はなれいぬ》とならん」ト、いふを黄金丸は押止《おしとど》め、「こは漫《そぞろ》なり鷲郎ぬし、わがために主を棄《すつ》る、その志は感謝《かたじけな》けれど、これ義に似て義にあらず、かへつて不忠の犬とならん。この儀は思ひ止まり給へ」「いやとよ、その心配《こころづかい》は無用なり。某|猟師《かりうど》の家に事《つか》へ、をさをさ猟の業《わざ》にも長《た》けて、朝夕《あけくれ》山野を走り巡り、数多の禽獣《とりけもの》を捕ふれども。熟《つらつ》ら思へば、これ実《まこと》に大《おおい》なる不義なり。縦令《たと》ひ主命とはいひながら、罪なき禽獣《もの》を徒《いたず》らに傷《いた》めんは、快き事にあらず。彼の金眸に比べては、その悪五十歩
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