へん。われ彼の金眸《きんぼう》に意恨《うらみ》はなけれど、彼奴《きゃつ》猛威を逞《たくまし》うして、余の獣類《けもの》を濫《みだ》りに虐《しいた》げ。あまつさへ饑《うゆ》る時は、市《いち》に走りて人間《ひと》を騒がすなんど、片腹痛き事のみなるに、機会《おり》もあらば挫《とりひし》がんと、常より思ひゐたりしが。名に負ふ金眸は年経し大虎、われ怎麼《いか》に猟《かり》に長《た》けたりとも、互角の勝負なりがたければ、虫を殺して無法なる、他《かれ》が挙動《ふるまい》を見過せしが。今御身が言葉を聞けば、符《わりふ》を合《あわ》す互ひの胸中。これより両犬心を通じ、力を合せて彼奴《きゃつ》を狙《ねら》はば、いづれの時か討たざらん」ト。いふに黄金丸も勇み立ちて、「頼もしし頼もしし、御身|已《すで》にその意《こころ》ならば、某また何をか恐れん。これより両犬義を結び、親こそ異《かわ》れこの後《のち》は、兄となり弟《おとと》となりて、共に力を尽すべし。某この年頃諸所を巡りて、数多《あまた》の犬と噬《か》み合ひたれども、一匹だにわが牙に立つものなく、いと本意《ほい》なく思ひゐしに。今日|不意《ゆくりな》く御身に
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