》もなかなかこれに劣らず、互ひに挑闘《いどみたたか》ふさま、彼の花和尚《かおしょう》が赤松林《せきしょうりん》に、九紋竜《くもんりゅう》と争ひけるも、かくやと思ふ斗《ばか》りなり。
先きのほどより、彼方《かなた》の木陰に身を忍ばせ、二匹の問答を聞《きき》ゐたる、一匹の黒猫ありしが。今二匹が噬合ひはじめて、互ひに負けじと争ひたる、その間隙《すき》を見すまして、静かに忍び寄るよと見えしが、やにはに捨てたる雉子《きぎす》を咬《くわ》へて、脱兎の如く逃げ行くを、ややありて二匹は心付き。南無三《なむさん》してやられしと思ひしかども今更追ふても及びもせずと、雉子を咬へて磚※[#「片+嗇」、75−7]《ついじ》をば、越え行く猫の後姿、打ち見やりつつ茫然《ぼうぜん》と、噬み合ふ嘴《くち》も開《あ》いたままなり。
第五回
鷸蚌《いつぼう》互ひに争ふ時は遂《つい》に猟師の獲《えもの》となる。それとこれとは異なれども、われ曹《ら》二匹争はずば、彼の猫如きに侮られて、阿容々々《おめおめ》雉子は取られまじきにト、黄金丸も彼の猟犬《かりいぬ》も、これかれ斉《ひと》しく左右に分れて、ひたすら嘆息な
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