れを野良犬と詈《ののし》るぞ」「無礼なりとは爾《なんじ》が事なり。わが飼主の打取りたまひし、雉子《きぎす》を爾盗まんとするは、言語に断えし無神狗《やまいぬ》かな」「否《いな》、こはわれ此処にて拾ひしなり」「否、爾が盗みしなり。見れば頸筋に輪もあらず、爾|曹《ら》如き奴あればこそ、撲犬師《いぬころし》が世に殖《ふ》えて、わが們《ともがら》まで迷惑するなれ」「許しておけば無礼な雑言《ぞうごん》、重ねていはば手は見せまじ」「そはわれよりこそいふことなれ、爾曹如きと問答|無益《むやく》し。怪我《けが》せぬ中《うち》にその鳥を、われに渡して疾《と》く逃げずや」「返す返すも舌長し、折角拾ひしこの鳥を、阿容々々《おめおめ》爾に得させんや」「這《しゃ》ツ面倒なりかうしてくれん」ト、飛《とん》でかかれば黄金丸も、稜威《ものもの》しやと振り払《はらっ》て、また噬《か》み付くを丁《ちょう》と蹴返《けかえ》し、その咽喉《のどぶえ》を噬《かま》んとすれば、彼方《あなた》も去る者身を沈めて、黄金丸の股《もも》を噬む。黄金丸は饑渇《うえ》に疲れて、勇気日頃に劣れども、また尋常《なみなみ》の犬にあらぬに、彼方《かなた
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