かずら》に縫はれ、朽ちたる軒は蜘蛛《くも》の網《す》に張られて、物凄《ものすご》きまでに荒れたるが。折しも秋の末なれば、屋根に生《お》ひたる芽生《めばえ》の楓《かえで》、時を得顔《えがお》に色付きたる、その隙《ひま》より、鬼瓦《おにがわら》の傾きて見ゆるなんぞ、戸隠《とがく》し山《やま》の故事《ふること》も思はれ。尾花|丈《せ》高《たか》く生茂《おいしげ》れる中に、斜めにたてる石仏《いしぼとけ》は、雪山《せつざん》に悩む釈迦仏《しゃかぶつ》かと忍ばる。――只《と》見れば苔《こけ》蒸したる石畳の上に。一羽の雉子《きぎす》身体《みうち》に弾丸《たま》を受けしと覚しく、飛ぶこともならで苦《くるし》みをるに。こは好《よ》き獲物よと、急ぎ走り寄《よっ》て足に押へ、已《すで》に喰はんとなせしほどに。忽ち後《うしろ》に声ありて、「憎き野良犬、其処《そこ》動きそ」ト、大喝《だいかつ》一|声《せい》吠《ほ》えかかるに。黄金丸は打驚き、後《しりえ》を顧《ふりかえ》りて見れば、真白なる猟犬《かりいぬ》の、われを噛まんと身構《みがまえ》たるに、黄金丸も少し焦燥《いら》つて、「無礼なり何奴《なにやつ》なれば、わ
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