》に雨露を凌《しの》いで、無躾《ぶしつけ》なる土豚《もぐら》に驚かされ。昼は肴屋《さかなや》の店頭《みせさき》に魚骨《ぎょこつ》を求めて、情《なさけ》知らぬ人の杖《しもと》に追立《おいたて》られ。或時は村童《さとのこら》に曳《ひ》かれて、大路《おおじ》に他《あだ》し犬と争ひ、或時は撲犬師《いぬころし》に襲はれて、藪蔭《やぶかげ》に危き命を拾《ひら》ふ。さるほどに黄金丸は、主家を出でて幾日か、山に暮らし里に明かしけるに。或る日いと広やかなる原野《のはら》にさし掛りて、行けども行けども里へは出でず。日さへはや暮れなんとするに、宿るべき木陰だになければ、有繋《さすが》に心細きままに、ひたすら路を急げども。今日は朝より、一滴の水も飲まず、一塊の食も喰《くら》はねば、肚饑《ひだる》きこといはん方《かた》なく。苦しさに堪えかねて、暫時《しばし》路傍《みちのべ》に蹲《うずく》まるほどに、夕風|肌膚《はだえ》を侵し、地気《じき》骨に徹《とお》りて、心地《ここち》死ぬべう覚えしかば。黄金丸は心細さいやまして、「われ主家を出でしより、到る処の犬と争《あらそい》しが、かつて屑《もののかず》ともせざりしに。饑
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