を取らんとは、義を弁へぬに似たれども、親のためなり許し給へ。もし某《それがし》幸ひにして、見事父の讐を復し、なほこの命|恙《つつが》なくば、その時こそは心のまま、御恩に報ゆることあるべし。まづそれまでは文角ぬし、霎時《しばし》の暇賜はりて……」ト、涙ながらに掻口説《かきくど》けば、文角は微笑《ほほえみ》て、「さもこそあらめ、よくぞいひし。其方がいはずば此方《こなた》より、強《しい》ても勧めんと思ひしなり。思《おもい》のままに武者修行して、天晴れ父の仇敵《かたき》を討ちね」ト、いふに黄金丸も勇み立ち。善は急げと支度《したく》して、「見事金眸が首取らでは、再び主家《しゅうか》には帰るまじ」ト、殊勝《けなげ》にも言葉を盟《ちか》ひ文角牡丹に別《わかれ》を告げ、行衛定めぬ草枕、われから野良犬《のらいぬ》の群《むれ》に入りぬ。
第四回
昨日《きのう》は富家《ふうか》の門を守りて、頸《くび》に真鍮の輪を掛《かけ》し身の、今日は喪家《そうか》の狗《く》となり果《はて》て、寝《いぬ》るに※[#「穴/果」、第3水準1−89−51]《とや》なく食するに肉なく、夜《よ》は辻堂の床下《ゆかした
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