ものわらい》を招かんより、無念を堪《こら》えて英気を養ひ以《もっ》て時節を待つには如《し》かじ」ト、事を分けたる文角が言葉に、実《げに》もと心に暁得《さと》りしものから。黄金丸はややありて、「かかる義理ある中なりとは、今日まで露|知《しら》ず、真《まこと》の父君《ちちぎみ》母君と思ひて、我儘《わがまま》気儘に過《すご》したる、無礼の罪は幾重《いくえ》にも、許したまへ」ト、数度《あまたたび》養育の恩を謝し。さて更《あらた》めていへるやう、「知らぬ疇昔《むかし》は是非もなけれど、かくわが親に仇敵あること、承はりて知る上は、黙《もだ》して過すは本意ならず、それにつき、爰《ここ》に一件《ひとつ》の願ひあり、聞入れてたびてんや」「願ひとは何事ぞ、聞し上にて許しもせん」「そは余の事にも候はず、某《それがし》に暇《いとま》を賜はれかし。某これより諸国を巡《め》ぐり、あまねく強き犬と噬《か》み合ふて、まづわが牙を鍛へ。傍《かたわ》ら仇敵の挙動《ふるまい》に心をつけ、機会《おり》もあらば名乗りかけて、父の讐《あだ》を復《かえ》してん。年頃受けし御恩をば、返しも敢《あ》へずこれよりまた、御暇《おんいとま》
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