を堅く守りて、黄金丸の養育に、旦暮《あけくれ》心を傾けつつ、数多《あまた》の犢《こうし》の群《むれ》に入れて。或時は角闘《すもう》を取らせ、または競争《はしりくら》などさせて、ひたすら力業《ちからわざ》を勉めしむるほどに。その甲斐ありて黄金丸も、力量《ちから》あくまで強くなりて、大概《おおかた》の犬と噬《か》み合ふても、打ち勝つべう覚えしかば。文角も斜《ななめ》ならず喜び、今は時節もよかるべしと、或時黄金丸を膝《ひざ》近くまねき、さて其方《そなた》は実《まこと》の児にあらず、斯様々々云々《かようかようしかじか》なりと、一伍一什《いちぶしじゅう》を語り聞かせば。黄金丸聞きもあへず、初めて知るわが身の素性《すじょう》に、一度《ひとたび》は驚き一度は悲しみ、また一度は金眸《きんぼう》が非道を、切歯《はぎしり》して怒り罵《ののし》り、「かく聞く上は一日も早く、彼の山へ走《は》せ登り、仇敵《かたき》金眸を噬《か》み殺さん」ト、敦圉《いきまき》あらく立《たち》かかるを、文角は霎時《しばし》と押し止《とど》め、「然《しか》思ふは理《ことわり》なれど、暫くまづわが言葉を、心ろを静めて聞きねかし。原来|
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