て、水がドンドン流れています。その上に橋が一つかかっていて、その橋を渡らなければ町へ這入られません。
「サア町へ来た。向うの町に這入ると、きっといいお医者が居るのだ。そうしたらお前も私も身体《からだ》を当り前の恰好にしてもらえるのだ」
と云いながらその橋を渡ろうとしますと、橋のところの小さな小屋から二人の様子を見ていた番人が、
「モシモシ」
と呼び止めました。
豚吉とヒョロ子はうしろから呼び止められましたのでふり返って見ると、それは一人のお婆さんでした。そのお婆さんは二人の様子をジロジロと見ながら云いました。
「私はこの橋の番人だがね。お前さん方はこの橋を渡るならば渡り賃を置いて行かねばなりませんよ」
「そうですか。おいくらですか」
と豚吉は云いながらポケットからお金入れを出しますと、お婆さんは又こう云いました。
「けれども、当り前のねだんでは駄目ですよ。当り前だと一人分一銭|宛《ずつ》ですが、あなたの方は当り前の人間の倍位肥っていられますから、その倍の二銭いただきます。それからあっちの奥さんは、やっぱり当り前の人よりも背丈けが倍ぐらい長いようですから、やっぱり倍の二銭出して下さい」
これをきくと、豚吉は出しかけたお金を引っこめながら、
「おいおい、お婆さん。馬鹿なことを云ってはいけない。いかにも私の身体《からだ》は他人《ひと》の倍ぐらい肥っているが、背丈けは半分しかないから当り前の人間と同じことだ。あのヒョロ子でも背丈けは当り前の倍ぐらいあるが、その代り当り前の人間の半分位痩せているから、これも当り前の渡り賃でいいだろう。さあ二銭あげるから、これで勘弁しておくれ」
と云いました。
ところがこれを聞くと、お婆さんは大層|憤《おこ》ってしまいまして、小さな小舎《こや》から出て来ると、橋のまん中に立って怒鳴りました。
「お前さん方は何です。人並|外《はず》れた身体《からだ》をしながら当り前の橋賃でこの橋を渡ろうなんて、ずいぶん図々しい横着な人ですね。私を年寄りだと思って馬鹿にしているのだね。そんなことを云うなら、この橋はどんなことがあっても渡らせないから、そうお思い」
豚吉はその勢《いきおい》の恐ろしいのに驚いてふるえ上ってしまいました。けれどもこの橋を渡らなければ町へ行かれないのですから、豚吉は元気を出してお婆さんを睨み付けました。
「この婆《ばばあ》
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