最前から窓かけの蔭に隠れて聞いていたのは、この禿紳士の娘と男の子でした。二人はお父さんが出て行くと直《すぐ》に駈け出して、お医者の袖に縋《すが》って、この乞食を助けてくれと頼みました。そして娘はお母様から頂いた金剛石《ダイヤモンド》入りの指環を出して、これをお父様に上げて下さいと申しました。お医者は涙を流して感心しました。そしていろいろ乞食を介抱しますと、上手なお医者ですから、間もなく生き返らしてしまいました。その時にお父様の禿紳士は器械を片手に持ちながら、息を切らして帰って来ましたが、この体《てい》を見ると大層|憤《おこ》って、二人はどこから這入って来たかと叱りました。
その時お医者は一足進み出て、指環を紳士に見せながら申しました。
「お児《こ》様方は前からこの室にお出《い》でになっておったのです。私はこの乞食を生かしました。そして飲み込んでいた指環を吐き出させました。ですから何卒《どうぞ》乞食の生命《いのち》だけはお助け下されますように。この指環はあなたに差し上げます」
禿紳士がその指環を一眼見ると、誰の指環かという事が直《すぐ》にわかりました。そしてそれと一所に自分の子供の美
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