しい心がわかりまして、今までの自分の悪い行いを後悔しました。禿紳士はお医者に沢山のお礼を遣り、若い乞食を初め大勢の乞食を集めて、いろいろのものを遣って御馳走をしました。二人の子供にも御褒美《ごほうび》をやった事は申すまでもありませぬ。その時に禿紳士は若い乞食に向って申しました。
「拾ったものは返さなくてはいけない。指環はどこに隠してあるのか」
若い乞食は頭をかきかき答えました。
「あれは本当の事では御座いませぬ。夢の話をしていたのに此奴《こやつ》が私の頭をなぐったのです」
と横に居る跛を指しました。跛も顔を真赤にして頭を掻きながら、
「私も夢で指環を落したのですが、此奴が夢の中で同じ所で拾ったのならば、屹度《きっと》私のに違いないと思うと、急に腹が立ちましたから擲《なぐ》り付けたのです」
と申しましたから、皆腹を抱えて笑いました。
けれども禿紳士は笑わないで申しました。
「お前達の夢は正夢であった。御蔭で俺は善人になる事が出来た」
「じゃ、あの神様は本当の神様だったかしら」
と若い乞食が申しました。
「否《いや》、神様はここに居る。この二人の子供が俺の心を直した本当の神様だ」
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