はあたりを見まわしました。
 けれども、あたりにルルの姿は見えませんでした。ただミミが花を摘んでしまった春の草が、涙のような露を一パイに溜めて、月の光りをうつしながらはてしもなく茫々茂っているばかりでした。
 それを見て、ミミはまた泣きつづけました。
 その中《うち》にお月様はだんだんと空の真ん中に近づいて来ました。ミミも泣き止んで、そのお月様をあおぎました。
「ああ、お月様。今まで見たのは夢でしょうか、どうぞ教えて下さいませ」
 けれどもお月様は何の返事もなさいませんでした。
 ミミは涙を拭いて立ち上りました。露に濡れた草原《くさはら》を踏みわけて、お寺の方へ来ました。そうして鐘撞き堂まで来ると、空高く月の光りに輝いている鐘を見上げました。
「あの鐘を撞いて見ましょう。あの鐘が鳴ったなら、睡蓮が教えたことはほんとうでしょう。湖の底の御殿もあるのでしょう。女王様のお言葉もほんとうでしょう。お兄さまもほんとうにあそこで待っていらっしゃるでしょう。……あの鐘を撞いてみましょう……」
 ミミが撞いた鐘の音《ね》は、大空高く高くお月様まで……野原を遠く遠く世界の涯まで……そうして、湖の底深く深
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